福 岡 木 村 光 江
「医療と福祉を考える会」世話人会の席に「余命六カ月から読む本」が数冊置いてあります。開始を待つ間になじみの本屋さんの場面を思い描いて、勝手な想像をします。
「余命六カ月からヨムホン」…、題名に引きつけられて手に取り、開くと上手な余白のとり方に何とも、ほほえましいイラスト、パラパラとめくって、いやこれは元気な内に読む本だ、とレジに行く、という具合に沢山の人に読んで貰えるといいな、夫が「がん」と診断された六年前にこの本との出会いがあれば…。「一家に一冊だと思うわ」と読み始めているお隣りさんも同感であろうと決めて、つぶやきの一言でした。
その日の世話人会で今年度の施設訪問は、以前から一貫したケアを志す老人病院と聞いていた金隈病院にと決まりました。
中でも先の著書の編者である小山ムツ子さんが提案のホスピス様空間「心・元気病棟」は是非拝見したいと意見一致するところです。
八年目に入った私達の「医療と福祉を考える会」は、インフォームド・コンセントの普及を第一目標に掲げてシンポジウムや学習会に取り組んできましたが、施設訪問も大切な課題です。
澄みわたる晴天の一一月中旬、福岡空港辺りから車で10分程の山沿いの緑に囲まれる病院前に総勢一二名が揃い、案内されました。
昭和54年、老人病院として開設されてから、現在老健施設、老人ホームなど六施設が整えられ、なお一室6人を4人に改善するための増築中です。広いロビーのガラス全面に紅葉が映えています。季節毎の見事さを想像しながら、義父の入院の時、既にこの病院は開設されていたのだから、と情報不足の帰らぬ悔いがよぎります。よく磨かれた廊下はゆったりと広く、ここを歩くだけでもリハビリになるとの説明に頷けます。
心・元気病室は二階と三階に数室ずつで、高齢者用個室から改装され方が見事です。
一部屋毎にカーテンも絨毯も異なる心配り、企画から女性参加の気配りがわかる収納部分の広さとトイレ、バスは勿論ミニキッチンまであります。
五年前の夫と私達家族のホスピスの40余日を思って、暫く立ち止まっておりました。
病人には実際に不安で長い夜なのに、「面会時間終了」の追い出し放送で一人残して立ち去らなくていいのです。看護婦さんは担当の○○ですと自己紹介までされる丁寧さ、夫の大腸から転移の肝臓がんの苦しみも充分に緩和されて、痛むこともなく、診断から一年の早さではあったけど、その四〇余日がどれ程の救いであったことか、この部屋に入られる方々に約束されている平安が、今もまだ半数はケアされることなく苦しんでいるという「がん」を病む方に早く及びますようにと、祈らずにはいられませんでした。
折角達成できた高齢社会にある問題の「介護」や死亡原因一位の「がん」の克服は容易ではないでしょうけど、困難を支えあえる社会の芽生えと確信できた思いで、「いい風ね」と三々五々ゆるい坂道の帰途につきました。