権利法NEWS

カルテ開示法制化の現状~医療審議会での議論はじまる

患者の権利法をつくる会事務局長  小林 洋二

「カルテ等診療情報の活用に関する検討会」が、カルテ開示法制化の報告書を発表して約半年が経ちました。この間の法制化をめぐる状況の動きを、分かっている範囲でお伝えいたします。

事時報社のメディファクッスという情報誌の伝えるところでは、一一月二六日、厚生省の小林健康政策局長は第四二回社会保険指導者講習会で講演し、カルテ開示の法制化を行う方針であることを明言しました。しかし同時に「患者の診療情報を見せなさいと言っており、全部見せろとは言ってない」として、治療効果に悪影響を及ぼすような情報が記載されている場合は、診療情報だけを抽出して別文書で提供する考えを示したとのことです。
この考え方は、検討会報告書で議論された二つの点、つまり例外的にカルテを開示しなくていいのはどういう場合か、という問題と、環境整備が進むまでの当面の間カルテそのものではなく自己決定に必要な別文書を作成・交付することで足りるとするという方法論を、無原則に合体させたような考え方と言えます。遠からず厚生省の要綱案的なものが何らかの形で出てくることと思われますが、その内容については予断を許しません。
ところで、この問題は現在、医療審議会で議論されています。

の問題が初めて議題に上がったのは、一一月九日の審議会です。この議論の概要については厚生省のホームページにアップされています。
議論の前半部分は、思わず溜息をつきたくなるような情けない発言がいくつもあります。

「カルテの所有権は誰が有しているのか、所有権が診療側にあるとすれば、それをやたらに開示することは強制できないのではないか」

「診療録にはどの程度記入すればいいのか、例えば手術をする場合においてもなぜこの手術が必要かということや、手術の危険率についての様々な文献を一緒に綴じておくとすれば、診療自体が進まなくなってしまう」

「診療情報の提供は、訴訟とは全く目的が異なるということを明記しておくべき」

「ただちに法制化を行うことはいかがなものか」

言者が誰であるかは特定されていません。医療審議会の委員は「医師、歯科医師、薬剤師、医療を受ける立場にある者及び学識経験者のある者のうちから厚生大臣が任命する」となっているのですが、こういう発言をする人たちというのはおそらく医療を受ける立場にある人や学識経験のある人以外だろうということは容易に想像できます。
しかし途中で「検討会報告書は突如あらわれたものではない。世界医師会のバリ島宣言が一九九五年にカルテ開示を謳っており、世界の大きな流れがある。国内でも与党医療保険制度改革協議会等の指針があり、カルテ開示というのは世界的にも国内的にも大きな流れをなしている。報告書の内容は検討会で合意が得られる範囲で書かれており、新聞などの報道ではむしろ弱腰ではないかという論調であった。」
との発言があり(おそらく検討会のメンバーでもあった朝日新聞論説委員の大熊由紀子さんの発言)、それ以降は議論がかなりまともなものになっているようです。ただ、まともな議論と言っても、要するに環境整備先行論と法制化先行論が、いろいろ表現を変えて繰り返されているだけのようにも思われます。検討会報告書以上に内容が深まることはあまり期待できません。

お一二月一八日の審議会でも引き続きこの問題がとりあげられているはずなのですが、そこでどのような議論になったかについては、私がこの報告を書いている一九日の段階では情報が入っていません。会員で傍聴された方がいらっしゃれば、議論の概要、それを聞いた感想など、けんりほうニュース一月号に投稿して下さると助かります。

ころで、医療審議会というのは医療法七〇条の二によって設置されている審議会で、その目的は、厚生大臣の諮問に応じ、医療供給体制の確保に関する重要事項を調査審議することとなっています。なるほど適切なカルテを作成するための環境整備は、まさしく医療供給体制確保の問題であり、医療審議会でじっくり議論してもらえばいいことでしょう。しかし、カルテ開示は医療供給体制確保の問題ではなく、むしろ患者の人権の問題です。つまりカルテ開示を法制化するかどうかは、本来医療審議会で議論するような問題ではないのではないでしょうか。厚生省としては、医療審議会での議論がどうあれ、カルテ開示法制化の方向でまずは要綱案を作成し、医療審議会には、法制化を前提とした環境整備の点に限って議論してもらうべきではないかと思います。

最後は若干の感想となりましたが、会員の皆様も、カルテ開示法制化に関するご意見を、是非けんりほうニュースにお寄せ下さい。