権利法NEWS

「余命6カ月から読む本」を読む

ガンと末期医療を考える会  中 田 潤一郎

日は「余命六カ月から読む本」という本をご恵与下さいまして有り難うございます。この数年間、ガン、に関する本の出版がやたらに多く、少々、食傷気味というのが本音です。と申しますのも、その大部分が個人のガン闘病記、あるいは家族によるガン患者の看取りの手記などの自費出版の本です。その一人一人にとっては、かけがえのない夫または妻の命の記録であっても、年間、ガンで死亡する日本人二四、五万人の仮にその一〇分の一が手記を書いたとしても二万、三万ということになり、膨大なものになります。

今、日本は平成の大不況ということで経済は縮小し、個人の財布の紐は固く、消費はなかなか上向かないということですが、「命にかかわること」で「一生に一度の支出」のこうした手記や、記念出版に関しては不況もなんのその、なかなかの活況を呈しているように思われます。

て、このように書いてきますと、お送り戴いた本に何か言いがかりを付けているようにお思いになるかも知れませんが、決してそうではなく、このような本の洪水の中で良書をなかなか見分け難いということを申し上げたかったわけです。
ガン、について、このように沢山の本が出版され、巷には情報も溢れているように見えますが、いざ、自分があるいは家族がガンになったとき、頭の中が真っ白になって何も手につかない、ただ、死の恐怖だけがヒシヒシと迫ってくるという状態になるもののようです。
そういう時に読んで役に立つのがこの本である、と私は考えます。分かりやすい実用の書です。「余命六ヶ月から...」とは書いてありますが、「ガンが見つかったらすぐに読む本」としても差し支えないと思われます。
私の経験に則して言えば、八年前「ガンと末期医療を考える会」が発足して二ヶ月目にこの会の創立者でもあり指導者でもあったガン患者の岡博氏が他界し、まるで船頭を失った船に残された人間のように途方に暮れたことがあります。
そんな時に末期ガンに関する情報を満載したこのような書物が有ればどんなに助かったことか、と思います。この本はそういう意味で入門書であり、真っ白になった頭に落ちつきを与え、方向を見出すことの出来る書物であると言うことが出来ます。

が感心したのは、例えば疼痛除去等の記述です。WHO方式でモルヒネを使えば九〇パーセントの痛みを取ることが出来るということは今では、我が会の会員をはじめ多くの人の知っているところですが残りの一〇パーセントの酷いガン性疼痛について、どのように処置するかの記述のある本には出会っていませんでしたし、私の知っている医師からも明確な教示をされたことがありません。
従って四三ページからの「患者と医師の『痛み』対談」は何度も読み返しました。この事を伝えなければならない患者の家族が会員の中にいるからです。
また、ホスピスについての章も興味深いものがありました。私たちは六年前、総合病院の中にホスピス病棟をということで県に請願に行ったり宣伝活動をしたりの運動を展開したことがあります。その行動を起こす前の討議の中で「ホスピスは死ぬところではありません。生きるところです」という一つの定義が問題になりました。死を当然の事として受容出来ない日本的風土の中で、ホスピスは死ぬところではない、という言い方の中にホスピス運営にたずさわる人々の苦渋を読み取ることが出来ますが、何か脆弁めいて聞こえます。曖昧さの中に日本文化の美質があるという人もいますが、島国の閉鎖性の中でこそ通用すれ、今後の世界では明晰な論理性のないものは通用しないと思われます。政治、経済の世界ではもたれ合いや曖昧さの上に築かれてきたものが恐ろしい勢いで崩壊しています。「病院で死ぬということ」の著者、山崎章郎医師のいる桜町ホスピタルでは入った直ぐのところに霊安室があるという話を永六輔氏から聞いたことがあります。波多江さんも書いておられるように真実が人と人を近づけるようにホスピスでは死について語ることは避けられないと思われます。
この本ではその辺りの討議が意識的に回避されているように思われます。山口県内でも今年中に二つの病院に緩和ケア病棟がオープンすることになっており、みじかな問題となっています。

後に無いものねだりになるかも知れませんが、例えば、転院をしたいとき、或いはセカンド・オピニオンが必要とされるときなど、患者が自己の人権を主張し状況を変えようとするとき病院側がすんなりとそれを受け入れるような状態にはなっていないように思われます。病医院ガイドで沢山の医療機関が紹介されていますが、みんないい事ずくめで、聞いて極楽、見て地獄ということにならなければ良いがと思います。
纏まりのない文章になりましたが以上が私の感想です。

『余命六カ月から読む本』
ファイナルステージを考える会編
海鳥社 一、八九〇円
■連絡先■ 810-0074
福岡市中央区大手門3-6-13 TEL 092-771-0132