医療情報の公開・開示を求める市民の会 勝村 久司
一般公開シンポジウム『カルテ開示から患者の権利確立へ』が九月二六日、大阪府立労働センター大会議室で開かれました。「患者の権利法をつくる会」「医療情報の公開・開示を求める市民の会」の共催で、九〇名を超える多くの参加がありました。
第一部では、医療事故調査会代表で医真会八尾総合病院院長の森功氏と、権利法をつくる会世話人で弁護士の小林洋二氏の講演がありました。
森氏は「情報開示はどうすれば患者の権利につながるのか」というテーマで、日本の医療の遅れた現状を、現場をよく知り、多くの医療過誤訴訟に関わる立場から話されました。カルテがきちんと書かれていない、インフォームドコンセントは「ない」に等しい、医療が客観化されていない、閉鎖的で相互批判を欠いている等、次々と問題点をスライドを用い明快に示されました。医師会は消極的だが数年後にはカルテ開示に至るであろう、しかし単にコピーを見せてもらう、ということでは改竄のおそれなどもあるため、それだけでは不十分であると指摘され、補うものとして、森氏の病院が自らが用い実践されている、医師・医療関係者と患者によって交換日記風に書かれた自己管理型カルテの「診療手帳」を紹介され、その意義について話されました。また、「患者の権利」が言われて数年経ち、少ないながらも一定の取り組みをしているところもあるがまだまだ表面的であり、患者の権利はほとんど無視されて来て、現在も改善されておらず、医事紛争だけが右肩上がりで増加している、と指摘されました。このような現状を考えれば、国民自身が自己の権利と、それを得るための義務的作業を真剣に考え実行し、良い意味での「患者と医師の緊張関係」を高める必要があるとまとめられました。
続いて小林氏は「カルテ開示を求める運動の経過と今後の展望」というテーマで、カルテ開示法制化に向けての思いを語られました。カルテ開示実現によって、患者が選択するための情報が得られ、患者の権利確立につながること、また、隠さないことによって信頼関係が生まれトラブルが減少すること、さらに、開示は医療の標準化にもつながり、それが医療事故そのものを減らしていくだろうと話されました。
続いて第二部では、遺族として全国で初めて個人情報保護条例によってカルテ開示を受けた北川めぐみさんから報告があり、その後、先に講演をされたお二人の他に、大阪難病者団体連絡会の梓川一氏、知る権利ネットワークの岡本隆吉氏や私が加わり、大阪医療問題研究会の平井満弁護士の司会でパネルディスカッションが行われました。
北川さんは、三歳になる子どもの体調が悪くなり、最終的に大阪の市立病院に入院させることになりました。夜になり、病院からは「決まりだから」と言われ家族は帰らされました。ところが夜半過ぎ「看護婦が見回りに言ったら既に死亡していた」という電話が入ったということです。その後、カルテ開示を求めましたが「見せられない決まりになっている」と断られ、挙げ句には「担当の看護婦が傷つくかも知れないからあまり聞かないで」とまで言われたそうです。当時、大阪市は既に、この日もパネラーだった岡本隆吉氏に対して条例に基づきカルテを全面開示していましたから、北川さんも市に開示請求をしました。ところが市は「子どもが生きておれば親には法定代理人として開示請求権があるが、子供が死亡すれば請求権がなくなる」として門前払いしました。しかし、その後の市民団体の粘り強い交渉の結果、昨年三月にカルテは全面開示されました。北川さんは「遺族が何があったか知りたいと思うのは当たり前。例えば、母親として、どっちを向いて寝ていたのか、布団はどんなふうにかかっていたのか、まで知りたかった」と話されました。その後のディスカッションでも、遺族へのカルテ開示の問題が取り上げられました。厚生省の検討会が、カルテ開示の法制化を求めたものの遺族への開示に関しては検討対象外としていることを不満とする意見が相次ぎました。
平井氏の「どうも元気な人の声ばかりがカルテ開示を求める中で大きくなりすぎていないか」という問題提起を受けて、梓川氏は、約五十名の患者会のアンケートをもとに、医療と関わり続けなければならない立場から、カルテ開示に関する意見を述べられました。アンケートでは、概ね、癌告知・カルテ開示・遺族への開示ともに、賛成とする回答が多かったものの、少数意見にも興味深いものがあり、その分析を通じて、患者の心の理解の必要性を訴えられました。
岡本氏は、地方自治体の条例を積極的に利用し情報開示を実現させてきた経験をもとに、「国などに要望を続けると共に、実際に開示請求をどんどんして、実績を作っていくことが大切」と、説得力のある発言がなされました。最後に、権利法をつくる会事務局長の辻本育子弁護士が挨拶され、カルテ開示の法制化に向けて今が最も大切な時期であり、今後更にみんなの声を合わせて具体的な取り組みをしていきたい、とまとめられました。
以上が概略ですが、とても内容の濃いシンポジウムであったと思います。私個人としては、特に遺族としての北川さんや患者としての梓川さんのお話に感銘を受けました。医療は今のままでは更に人権を侵害しながら漫然と薬害・医療被害を繰り返して行くでしょう。「遺族の気持ち」「患者の心」を大切にするためのカルテ開示が、やがて患者の権利を確立し、被害防止につながることを願ってやみません。