横浜 弁護士 森田 明
厚生省の検討会の報告書をうけ、カルテ開示の法制化の実現をめざして、去る七月一三日、しばらくぶりの東京例会を持ちました。会場は、東京ドームを眼下に望む、文京シビックセンター二五階のスカイホールです。
ゲストに東海大学教授で、厚生省検討会の委員であった宇津木伸さんと埼玉県立がんセンター院長の桜井雅温さんをお迎えしました。
宇津木さんからは、検討会の議論の様子と報告書の問題点についてお話いただきました。この検討会は、電子カルテについての研究会を引き継ぐように設けられたが、実際には電子カルテの議論はあまりせず、カルテ開示を検討してきたこと、カルテの性質から結論を導くべきではないということからカルテの法的性質についてはあまり議論しなかったこと、「医療の向上」という言葉がよく使われたが、意見陳述での患者団体は「今後の医療・制度の改善」という意味で用いるのに対し、検討会の中では「その患者に対してよりよい医療をする」という意味で用いられていた(したがって当該患者の診療に役立たない開示には消極的になる)こと、など興味深い内容でした。また、法制化については、医師には大変抵抗が強いので、「明るい法律と暗い法律があって、これは明るい法律なので・・・」などと説明する人もいたそうです。「当面診療録に代わる文書でよい」とすることには、宇津木さんも当初反対だったようですが、過去のカルテを見せることに抵抗が強いこと、施行までに準備期間を設けて対応しようとすると、大変先になってしまう可能性があるので、今できるやり方で出して行くことの方が、「馴らし」のためには実効的とも考えられることから必ずしも悪いものとは思っていないということでした。
桜井さんには、県立がんセンターでカルテの開示を行なうに至ったいきさつと実情についてお話いただきました。埼玉県立がんセンターは、職員約六〇〇名、三〇〇床の病院です。一九九〇年ころからがん告知に積極的に取り組むようになり、一九九三年には告知率七六パーセントになり、このころから「患者によるカルテの搬送」をはじめました。患者が検査室に来てもカルテが届いていない、といったトラブルを避ける目的もありましたが、患者は見ようと思えばカルテを見られることになります。これについて、看護婦は賛成しましたが、医師の一部には反対があったそうです。しかし、現在ではほとんど反対はなく、問題もないそうです。しかし、患者が「カルテを見てよい」と思わないために「こっそり隠れて」見ていたりしたため、九七年一二月に病院の制度として、開示を求めることができるようにしたそうです。もっとも、あまり患者に知られていないため請求例は少ないようです。遺族についても、本人の生前の希望があったり、病院側で適当と認めた場合には開示をさせているそうです。
報告を踏まえて、多くの方から会場発言をいただきましたが、ここではその紹介は割愛させていただきます。
最後に、出席いただいていた、清水澄子議員(社民党)と石毛えい子議員(民主党)からご挨拶をいただきました。この例会は、法制化への第一歩ということで、衆参の関連委員会の議員にご案内をお送りしていました。参院選の翌日ということになってしまい、ご多忙だったことと思いますが、両議員のほか、多数の議員秘書の方の参加もいただきました。全体の参加者も一〇〇名弱(?・・・六〇名以上いたことは間違いありません)にのぼり、盛り上がった集会といえるでしょう。
国会情勢も面白くなってきました。これをてこに、一気にカルテ開示の法制化にこぎつけたいものです。