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権利法をつくる会、 カルテ検討会で意見陳述

森谷 和馬

1月27日(火)、事務局から予め言われていた午前九時四〇分少し前に、厚生省のある合同庁舎一階のエレベーターホールに着きました。ところが、上りのエレベーターは地下から乗った人で満員。何台か見送った後、ようやく乗れました。

26階の共用会議室に入ると、かなり大きな部屋の中央にはテーブルが漢字の「口」という形に置かれており、これは検討会の委員が座る席です。入り口から入ってすぐの左手が厚生省の事務局担当者(総勢7~8人)の席です。健康政策局長は、座長の左隣に陣取り、医療情報推進室長、歯科保健課長、医事課長の3人は、座長と向かい合う形で、委と同じテーブルに着きます。
入り口から向かって右側に意見発表者の席が6つ作られ、発表者は一部の委員の背中を見る格好で座ります。座ってみると、今日の意見発表者のほとんどは顔見知りの人だということが分かりました。発表者席の後ろには傍聴者用の椅子が置かれています。傍聴席は満員のようです。部屋に入る前、廊下にある傍聴者リストをちらっとのぞいたら、製薬会社の人が結構来ているようでした。
他にジャーナリストも来ていました。

意見発表者には、事務局担当者から、検討会委員のメンバー表、座席の配置表、今日の議事次第(今回書面で寄せられた意見の全部が資料として含まれている)が配られました。さすがお役所だけあって、それぞれの机の上には、削った鉛筆が二本(黒と赤)、それに「厚生省」の名前が入ったメモ用紙も用意されていますし、ヒアリングの途中ではコーヒーも出してくれました。
開会直前まで、どこかのTV局が室内の様子を撮影していましたが、午前10時に事務局の進行役が開会を告げました。まず、座長の森島昭夫上智大教授が挨拶した後、委員に配付されていた前回の議事録の要旨を簡単に確認しました。
その後宇都木伸委員(東海大学教授)が、検討資料として配付された論文(「イギリスにおける医学研究倫理委員会(3)-患者情報の保護と使用ガイダンス-」)の内容について簡単に解説しました。その中で、開示を巡って争いが起きたときの手続が問題だが、日本ではその制度が不備なので、そのための機関を(地方と中央に重層的に)設ける必要のあることが指摘されたので、私は「そうだそうだ」とうなずいていました。

午前10時9分、いよいよヒアリングの始まりです。事務局の説明だと、事前に意見発表を希望したのは7名だそうですが、一人は都合がつかず、今日意見を述べるのは六名とのことでした。意見発表の時間は、一人10分以内と指定されていますが、結果的には時間オーバーの傾向にあったようです。

最初の意見発表者は、都内の診療所で内科医として診療している工藤嗣顕さん。ノートパソコンの画面をプロジェクターでスクリーンに写し、それを見ながらの説明で、さながらプロモーションビデオを見ているようでした。希望する患者に対し、B5版の「患者個人ファイル」を作って渡しているとのこと。
このファイルには、検査結果の推移(グラフの説明付き)、レントゲンや内視鏡のカラー写真、服薬中の薬の名前や注意事項、運動療法の仕方、医療者側が考えている治療上の目標など色々な情報が書かれています。カルテそのものの開示ではありませんが、「診療情報提供のサービス」として見れば、かなり徹底した例なんでしょう。患者からは費用として2000円を貰っているそうです。

二番目の発言者は、「医療情報の公開・開示を求める市民の会」事務局長の勝村久司さん。京都から参加されました。勝村さんは、まず提供を求めることのできる主体について、個人情報保護条例での不都合な実例(本人または法定代理人に限定するために、子が死亡した場合には開示しない、また本人に意識がない場合は、配偶者でも開示を求められないなど)を挙げながら、常識を踏まえた基準作りを要望しました。また、病院の窓口で患者が医療費を支払う際に、レセプトに準じた明細書を患者に交付するような仕組みを求めました。そしてこれまでの医療過誤・薬害の反省の上に立って検討することを求め、奥さんのお産の際に、陣痛促進剤の使用が医師から伝えられていなかったというご自分の経験を紹介しながら、医師の側の考え方ではなく、患者側の考えに沿った開示制度が必要だと指摘しました。

三番目は「医療過誤原告の会」代表の近藤郁男さん。長野からの参加です。近藤さんは、医療過誤は少数の例外として切り捨てられており、臓器移植を待つ患者が社会的に注目されるのとは大違いであることを指摘しました。そして証拠保全の費用が患者の大きな負担となっていること、かなりの患者が医療過誤に遭っても泣き寝入りを強いられており、たとえ訴訟を起こしても弁護士や協力医の確保で苦労すること、鑑定費用が高額なこと、裁判官が鑑定に頼りすぎることなど、現実の医療過誤訴訟の中での患者側の様々な苦労を訴えました。
そして開かれた医療を作り、医療の質を向上させるためにも、罰則を含めた開示の法制度を作るべきだと指摘しました。

四番目は私の番です。「つくる会」としての意見は既に文書で出してありますが、そちらでは、開示を必要とする理由としてプライバシー保護を先に挙げています。そこで、「つくる会」の簡単な紹介をした後、敢えて順序を替え、まず医療の場でカルテなどの診療情報が開示される必要性が現実にあることを、患者の自己決定権、セカンド・オピニオン、転院、医療過誤などの例を引いて指摘しました。そして二番目の根拠として、プライバシー権に基づく本人のアクセス権を挙げ、個人情報保護条例の限界を述べた後、結論として、診療情報の入手は患者の権利であるという認識を原則として、早急に開示の制度化をはかるべきだと言いました。もちろん、昨年発行した「カルテ開示」のPRもしておきました。

五番目は大阪から駆けつけた「知る権利ネットワーク関西」の岡本隆吉さん。岡本さんは冒頭で、今回のヒアリングの募集が急なため対応が難しかったことに苦言を呈し、情報公開法でのヒアリングとの違いを指摘しました。そしてこの検討会としては、カルテ開示を原則とする認識で議論していると思うので、まず、あるがままのカルテを開示させるようにして欲しいと要望しました。さらに、国会議員ルートや情報公開条例を使って資料を入手した、臓器の無断摘出・保存の実例などを紹介し、カルテを含むあらゆる医療情報の開示がなされるべきだと指摘しました。また、医師による一方的な裁量を排除して欲しいと要望しました。

最後の六番目は「カルテの開示をすすめる医師の会」世話人の前納宏章さん(埼玉の内科・小児科開業医)。持参した幾つかの資料の該当個所を指摘しながら、医師としての立場から意見を述べ、検討会として、分かりやすく実行可能で納得できる報告書ができるようにと希望しました。ただ私としては、お話を聞いていて、「医師の裁量権」という言葉が強調されるように何度も出てくるのが気になりました。

11時15分に意見発表が一通り終わり、森島座長が委員に対し、「意見発表者に対して何か質問があればどうぞ」と水を向け、いくつかのやりとりがありました。

その中で印象に残ったのは、医師である委員から、「カルテや検査記録を元にして医師が書いたものを患者に渡せば、カルテそのものを見せたりコピーしたりする必要はないのではないか」という意見が出されたことです。これに対しては、意見発表者の方から、「医師が書く際にバイアスがかかる」、「それでは現状と変わらない」という反論が出されたのは当然です。

一一時五八分に質疑は終わり、書面で寄せられた一一点の意見の概要を事務局が紹介しました。

そして、「現在、事務局で報告書のたたき台を検討しており、次回の検討会でその内容を検討して貰うことになる」との説明があり、一二時一二分に終了となりました。今後の検討会の日程は、2月27日(金)、3月19日(木)、3月26日(木)だそうです(午前10時からお昼まで)。

終わった後、意見発表者の何人かと一緒にお昼を食べましたが、一人にわずか10分しか発言の時間がないことには、大いに不満が出ていました。