第9期議案書
第9期議案書(1998年秋〜1999年秋)
1998年6月に、厚生省「カルテ等診療情報の活用に関する検討会」が発表した報告を受け、診療記録開示をめぐる議論が活発に行われた1年でした。
同年12月25日には、厚生省健康政策局が医療審議会に「医療供給体制の改革について(議論のためのたたき台)」と題するペーパーを提出、診療記録開示法制化の方針を打ち出しました。しかし1999年1月12日には日本医師会「医療情報提供に関するガイドライン検討委員会」が、中間報告「診療情報の適切な提供を実践するための指針について」を発表、診療記録開示は医師の職業倫理として行うべきであるとし、法制化反対の声を上げました。これに対し当会は、同年4月2日に右中間報告に対する意見書を日本医師会宛送付、5月24日には日本医師会宛公開討論会を申し入れるとともに、「診療記録開示の法制化を求める要望書」を厚生大臣宛に提出(当会外32の患者団体、市民団体との連名)しました。マスコミ各社も、法制化賛成の社説を次々に発表し、私たちの主張を支持しました。しかし残念ながら医療審議会の7月1日付答申「医療供給体制の改革について」(中間報告)は診療記録開示法制化を先送りする内容になっていました。
その他の動きとしては、脳死臓器移植法施行以来永らく行われてこなかった脳死臓器移植が立て続けに3例行われたこと、その一方で横浜市立大学の患者取り違え事件を初めとして極めて多くの医療事故が報道されたこと等が注目されます。
そのような中で、7月1日、福岡において「患者の権利オンブズマン」が発足しました。これは市民団体である「医療と福祉を考える会」、弁護士及び医療従事者で構成される「九州・山口医療問題研究会」及び当会の3団体の呼びかけで結成されたものです。7月1日の相談受け付け開始以来既に100件以上の相談が殺到しており、市民の医療に対する不満感と権利意識の高まりを感じさせられます。
現段階の情勢
医療審議会の答申は、法制化を先送りする内容になっているとはいえ、「患者が診療記録の開示を求めた場合には原則として診療記録そのものを示していくことが必要」とし、昨年6月の「カルテ等診療情報の活用に関する検討会」報告書に続いて診療記録開示の必要性を認めたものになっています。
また前述の日本医師会「診療情報の適切な提供を実践するための指針について」は今年4月の総会で、日本医師会の倫理規定として承認されており、遅くても今年度中には診療記録開示の実践が始まるはずです。また2月17日には、文部省が「国立大学付属病院における診療情報の提供に関する指針(ガイドライン)」を発表しています。これまで患者に対する診療記録開示は一部の先進的な医療機関で実践されていましたが、この二つの指針により、大部分の医療機関で自主的な診療記録開示が行われることになるはずです。
診療記録開示の必要性の議論は決着がつき、実践の段階に入りました。日本医師会が法制化に反対しながらも「自主的な」診療記録開示に踏み切らざるを得なかったのも、法制化の運動あればこそであり、これは患者の権利運動の極めて大きな成果と言えます。
しかし日本医師会及び国立大学付属病院の指針には、遺族を開示請求権者の範囲から除外する、診療記録開示に代えて要約書(サマリー)の交付を認める、広範な非開示事由を認めるといった不十分な点があります。このような問題点を克服し、真の診療記録開示請求権を獲得するためには、医師の職業倫理としての診療記録開示ではなく、患者の権利としての診療記録開示という視点が不可欠であり、法制化の実現を目ざす必要があります。