第10期議案書

第10期議案書(1999年秋〜2000年秋)

 ここ数年来議論されてきた診療記録開示は、いよいよ実践の段階に入りました。
 昨年4月の日本医師会総会で採択された「診療情報の提供に関する指針」は本年1月から実施に移されています。
 昨年2月に発表された「国立大学付属病院における診療情報の提供に関する指針」に基づき、全国の国立大学医学部(あるいは国立医科大)付属病院40施設、国立大学歯学部付属病院8施設、公立大学医学部(あるいは公立医科大)付属病院8施設、公立歯科大学付属病院1施設、私立大学病院9施設で診療記録開示の実践が始まりました(NPO患者の権利オンブズマンの調査;11月1日現在)。これは全国の大学病院の約半数にあたります。
 本年6月には、国立病院等診療情報提供推進検討会議の「国立病院等における診療情報の提供に関する指針について」が発表されました。この指針に基づき、来年4月から全国の国立病院で診療記録開示が実施されることになりますが、既に一部の国立病院ではこの指針に基づく診療記録開示を実施しています。
 また昨年の横浜市立大学医学部付属病院の患者取り違え事故以来、今年に入っても、国立循環器センター、京都大学医学部附属病院、東海大学病院などの重大な医療事故の報道が相次いでおり、医療事故防止対策が社会的な課題として大きく浮上してきた感があります。
 本年4月には、特定機能病院の安全管理体制確保に関する省令が施行され、6月の医療審議会医療施設機能部会では前記の医療事故を発生させた各医療機関からのヒアリングが行われています。
 また5月には、国立大学付属病院長会議の「医療事故防止方策の策定に関する作業部会」の中間報告「医療事故防止のための安全管理体制の確立について」が発表されました。この中間報告は「人間はエラーを犯す」ことを前提とした医療事故防止対策を提唱している点、及び事故発生の場合には事故原因の徹底的な究明、患者・家族に対する隠し立てのない説明・社会的公表が必要であるとしている点で注目されます。
 そのほかのトピックとしては、4月からの介護保険制度のスタートが挙げられます。実施前から様々な問題点が指摘されてきた介護保険ですが、いざ実施されてみると、介護保険と医療保険の自己負担の格差から要介護認定返上が相次ぐなど、予想された以上の問題が噴出しています。

 

現段階の情勢

 昨年発表されていた日本医師会及び国立大学のガイドラインに加え、「国立病院等における診療情報の提供に関する指針について」が発表されたことにより、各種医療施設のガイドラインはほぼ出揃った状況と言えます。
 ほとんどの医療機関において、患者の求めに応じて診療記録開示が行われることを原則とするガイドラインが適用されるようになったことは、患者の権利の前進として率直に評価すべきことでしょう。しかしこれらのガイドラインによる診療記録開示には一定の限界があり、患者に対する診療記録開示請求権の保障としてはまだまだ不十分であることもまた確かです。
 例えば日本医師会や大学病院のガイドラインでは、要約書・サマリーの交付をもって診療記録の開示に代えることができるとされていることから、診療記録開示請求には一律に要約書・サマリーの交付をもって対応するという態度をとっている医療機関も存在します。また日本医師会のガイドラインでは、「自由な開示申立を阻害しないために、開示目的を問うことは不適切」とされているにもかかわらず、実際には「訴訟目的の開示請求はガイドラインの範囲外」との理由で開示を拒絶されたという事例も報告されています。
 厚生省は「診療録等の診療情報の提供を医療現場において普及・定着させていくために、医療従事者の自主的な取組み及び環境整備を推進する」(医療供給体制の改革について)として、当面は各種ガイドラインによる自主的な取り組みにまかせるという態度を明らかにしています。このような状況の下で、患者の権利としての診療記録開示請求権の保障を実現するためには、ガイドラインによる診療記録開示の限界を明らかにし、法制化の必要性を訴える活動が重要です。