第11期議案書

第11期議案書(2000年秋〜2001年秋)

 昨年12月、医療法の一部が改正され、病床種別の変更などとともに、医療機関は「診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨」広告できることになりました(69条9号)。また、この改正法案を可決した参議院国民福祉委員会は、以下のような内容を含む付帯決議を行っています。
 「カルテの開示については、環境整備の状況を見て法制化を検討するとともに、十分な医療情報の開示を行い、インフォームドコンセントの実が上がるように努めること。なお、カルテについては、遺族の申請による開示も検討すること」
 「医療の質を確保し、患者の立場を尊重するために、各医療機関の情報公開を更に進めていくとともに、医療機関等の第三者評価の内容等及び苦情解決機関の設置等について充実を図ること」
 「医師及び歯科医師の臨床研修については、インフォームドコンセントなどの取組や人権教育を通じて医療倫理の確立を図るとともに、精神障害や感染症への理解を進め、更にプライマリーケアやへき地医療への理解を深めることなど全人的、総合的な制度へと充実すること」
 今年6月には、民主党から医療事故防止対策を中心とする医療法改正案が国会に提出され、現在、継続審議になっています。
 また民主党はこのほか「医療の信頼性の確保向上のための医療情報の提供の促進、医療に係る体制の整備などに関する法律」を、社民党は「診療記録の開示に関する法律案」を、いずれも国会に提出する準備を進めています。
 医療事故問題に関して、今年6月、国立大学医学部附属病院長会議常置委員会は、「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて」を提言しました。同委員会の「医療事故防止方策の策定に関する作業部会」中間報告は、既に昨年5月に発表されていましたが、約1年を経て、最終的な提言としてまとまったものです。この提言は、「事故発生時の対応」を医療事故防止対策の一つとして位置づけるという画期的なものであり、そこには医療事故発生後の患者・家族への誠実で速やかな事実の説明、遺族も含めた患者側へのカルテ開示等が含まれています。
 またこの提言に先立って、昨年11月に公表された国立病院の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」は、医療事故を「医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての人身事故で〜医療従事者の過誤・過失の有無を問わない」、医療過誤を「医療事故の一類型であって、医療従事者が、医療の遂行において、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為」と定義した上、医療過誤の疑いがある場合、施設長に警察署への届出を義務付けています。
 一方、小泉総理の諮問機関「総合規制改革会議」中間報告は、医療分野の改革に関し、レセプト原則電子化、健保組合による直接審査、医療機関の広告規制原則撤廃、診療報酬定額払い制度の導入、公的医療保険の範囲見直し、保険診療と自費診療の選択自由化等を提言し、また株式会社の医療への参入も検討課題として掲げています。また厚生労働省は来年度の医療制度改革に向けて、老人保険制度の対象年齢を75才に引き上げる、健康保険の自己負担を3割に引き上げるなどの方針を明らかにしました。

 

現段階の情勢

 各種のガイドラインによるカルテ開示は徐々に普及しつつありますが、その限界もまた明らかになりつつあります。特に日本医師会のガイドラインに関しては、「裁判問題を前提とする場合には、この指針の範囲外であり指針は働かない」という限定があるため、自分の責任を追及される可能性がある場合には開示を拒否するという医療機関が少なくありません(01/2/28朝日新聞)。
 このような状況の下で、前記「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて」が、医療事故の場合のカルテ開示の必要性に言及し、さらに「為された医療行為の妥当性について、病院と遺族とで見解が対立していたとしても、そのことを以て開示を拒むべきではない」と明言したことは極めて大きな意義があります。医療事故防止対策問題と、カルテ開示問題とを、それぞれ個別の課題ではなく、いずれも患者の権利という根本に遡って問題提起していくことにより、双方の課題の前進が期待できる状況が生まれています。
 なお厚労省(厚生省)は、「診療録等の診療情報の提供を医療現場において普及・定着させていくために、医療従事者の自主的な取組み及び環境整備を推進する」(医療供給体制の改革について)、「自主的開示の定着及び普及の状況を見つつ開示法制化を検討」(民主党櫻井議員に対する答弁書)としつつ、日本医師会のガイドライン普及に補助金をつけています。本気で法制化を考えているか否か疑問とも言えますが、逆に公費を使って普及を進めたガイドラインでのカルテ開示が不十分な者に留まるとすれば、法制化に踏み切らざるを得ない状況になっていると考えられます。
 厚労省の目指す2002年度医療改革は、患者の医療費自己負担を増加させ、医療を受ける権利を狭めるものですし、総合規制改革会議の中間報告は医療の平等性を大きく歪めるものと言えますが、いずれにせよ今後、国会においてこのような問題が議論されていくことは避けられません。ある意味では危機的状況とも言える反面、医療問題に関する国民的議論を巻き起こすチャンスでもあります。患者の権利に関する具体的な法案を準備しているのは民主党と社民党ですが、医療法改正に関する参議院国民福祉員会付帯決議は与野党含めてほとんどの会派の共同提案であり、カルテ開示、医療事故防止対策を始めとする患者の権利の法制化は、充分な可能性があります。