第14期議案書

第14期議案書(2003年秋〜2004年秋)

(1) 安全な医療を目指す動き

 昨年(2003年)4月15日、「医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会」報告書は、第三者機関による事故事例の収集・分析を提言し、「報告を求める事例の範囲について(例示案)」として、下記の2類型を挙げました。
a. 明らかに間違った医療行為により患者が死亡した、若しくは患者に永続的な高度な障害が発生した場合
b. 手術、検査、処置(麻酔を含む)が原因となって患者が死亡した、若しくは患者に高度な障害が発生した事例で、当該行為実施前に予期できなかったもの

 これを受け、同検討会内部に設置された「報告範囲検討委員会」で、報告範囲についての検討が行われ、特にbの類型を報告範囲に含めるか否かが大きな論点となりましたが、昨年12月、下記の3類型を報告範囲とする結論が出ました。
i. 明らかに誤った医療行為や管理上の問題により,患者が死亡もしくは患者に障害が残った事例あるいは濃厚な処置や治療を要した事例
ii. 明らかに誤った行為は認められないが、医療行為や管理上の問題により、予期しない形で、患者が死亡若しくは患者に障害が残った事例、あるいは濃厚な処置や治療を要した事例
iii. その他、警鐘的意義が大きいと医療機関が考える事例
 これに従って本年9月21日付で医療法施行規則が改正され、10月1日から財団法人日本医療機能評価機構による医療事故情報収集等事業が開始されています。報告義務を負うのは、国立病院、大学の付属病院、地域の中核の特定機能病院など全国で255の病院で、この1)〜3)の事故が起こった場合、発生時の状況や関係した医師らの経歴などについて、2週間以内に日本医療機能評価機構に報告することになっています。機構は、報告を分析して事故原因を明らかにしたうえで、その内容を公開し、再発防止に役立てることになっており、機構から都道府県知事等宛に出された通知は、報告義務対象医療機関以外の医療機関からも「幅広く」、「質の高い情報」を収集するため、管下の医療機関の協力を要請するという内容になっています。
 また、「医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会」報告書が、その必要性を指摘したことを契機に、昨年8月に開始された厚生労働科学研究「医療事故の全国発生頻度に関する研究」は、全国30病院を無作為抽出して、そのカルテを閲覧するという方法で調査・研究を行っています。本年9月7日に発表された中間報告によれば、現在のところ6病院計1500人分の調査を終了したという段階で、「全体の10.5〜12.8%で有害事象が見られた」としています。
 この間、昨年12月24日には、坂口厚生労働大臣の「医療事故対策緊急アピール」が発表されており、内容的には、上述した医療事故報告制度等これまで医療安全対策会議などで議論されてきたものが殆どですが、「今日の医療における医療事故問題の深刻さを示すものとして注目されます。なお「人に関する対策」の一つとして「刑事事件とならなかった医療過誤等にかかる医師法等上の処分の強化を図るとともに、刑事上、民事上の理由を問わず、処分を受けた医師・歯科医師に対する再教育制度について検討する」とされているのは、2002年12月、医道審議会医道分科会の「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」が、従来は刑事処分確定後に行われていた医師に対する行政処分を、民事事件でも明白な注意義務違反が認められる場合には処分の対象として取り扱うとの方針を示したことを受けたものですが、アピールにおいては処分だけではなく再教育制度が検討課題として挙げられています。
 また、医療界の動きとしては、本年4月、日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本法医学会が共同声明「診療行為に関連した患者死亡の届出について〜中立的専門機関の創設に向けて〜」を発表したことが注目されます。これは医師法21条の異状死届出義務に関する議論を出発点とするものですが、医療の透明性を高めるため、患者の死亡に診療行為が関連した可能性があるすべての場合に中立的専門機関に届出を行い、同機関において死体解剖を含めた諸々の分析方法を駆使し、診療経過を全般にわたり検証する制度を提唱するものであり、この制度創設に向けて専門家として取り組む旨が表明されています。

(2) 医療情報提供及び医療記録開示を巡る動き

 昨年5月に成立した個人情報保護法が、来年4月1日から全面施行となることを受け、今年6月に厚労省「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」が発足し、医療機関における個人情報取扱のガイドライン策定及び個別法制定の必要性について議論されています。
 9月末までに6回の検討会が開催されており、既にかなり詳細なガイドライン素案が提出されていますが、昨年9月の「診療情報の提供等に関する指針」との関係をどう整理するか、個人情報保護法の対象とならない死者の情報の取扱をどうするか(遺族による開示請求の問題)、保有する個人情報が5000件未満の医療機関についてどう考えるか等の論点が検討課題として挙がっているようです。

(3) そのほかの患者の権利に関する動き

 経済同友会は本年4月、「『医療先進国ニッポン』を目指して〜医療改革のビジョンと医療サービス提供体制の改革」を発表し、医療への株式会社の参入、地域医療計画の撤廃、混合診療の解禁などとともに患者の権利法制定によるインフォームド・コンセントの明文化、カルテ閲覧権の確保及び改竄に対する罰則制定などと提言しました。この意見書の提言には、医師免許更新制度による医療事故防止や、中立的機関による医療事故紛争の迅速解決等も含まれています。
 厚生労働省の委託によりハンセン病問題に関する事実検証事業を行っている財団法人日弁連法務財団ハンセン病問題に関する検証会議は、本年7月、「公衆衛生等の政策等に関する再発防止のための提言(骨子)〜ハンセン病問題における人権侵害の再発防止に向けて〜」を坂口厚労大臣に提出しました。内容的には、「政策決定過程における科学性・透明性等を確保するシステムの構築」、「患者・被験者の諸権利の法制化」、「患者等の権利擁護システムの整備」の3つの柱からなっており、厚労省に対し、これらの再発防止策を実現するための「ロードマップ委員会(仮称)」の設置を求めています。また、森厚労副大臣は、8月のハンセン病問題対策協議会において、平成17年度中における「ロードマップ委員会(仮称)」の設置を約束しました。