第8期議案書

第8期議案書(1997年秋〜1998年秋)

 昨年の医療保険制度改革関連法案の成立により医療保険における患者負担が増大した結果、受診の必要があっても経済的な負担ができないために受診をためらうという傾向が著しくなってきました。これは必要な医療を受けるという患者の基本的な権利を侵害するものです。
 わが国の医療はこのような患者の基本的な権利の面で一面危機的な状況を強めていますが、インフォームド・コンセントやカルテ開示の面では、つぎに述べるように大きな前進がありました。
 1998年3月16日、保険医療機関及び保険医療担当規則の一部改正が行われ、保険医療機関または保険医は、診察した患者の疾病等に関して他の保険医療機関又は保険医から照会があった場合には適切に対応しなければならないとされました。
 特筆すべきことは、1998年6月18日、厚生省「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」(座長 森島昭夫教授)が報告書を発表しましたが、この報告は、患者の求めがある場合には看護記録等も含めた診療記録が開示されるべきこと、また原則として癌や精神科医療においても医療記録の開示がみとめられるべきことを認め、このような診療記録の開示義務を法律でさだめるべきことを提言したことです。
 さらに、7月14日には、昨年4月4日に患者の権利法を制定するなどして患者中心の医療を確立すべきであるという中間報告を出した「総合研究開発機構(NIRA)」が「薬害等再発防止のシステムに関する研究」最終報告を発表しました。
 私たちは、医療情報の機密性及び利活用の必要性に鑑み、医療分野における独自の個人情報保護法を制定すべきという本報告書の方向性に、基本的に賛成いたします。

 

現段階の情勢

 ここ数年の間に我が国においても、インフォームド・コンセントが医療の中核であることは揺るぎのない理念として認められるようになってきたといえます。実践的にも、インフォームド・コンセントの重要性を自覚し、インフォームド・コンセントに基づく医療を実践しようという患者や医師が増えてきたことも事実ですが、わが国における医療全般をみたときに、インフォームド・コンセントが医療の基本となっているとは言いがたい状況です。
 また診療情報の開示に関しても、前記の厚生省「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」(座長 森島昭夫教授)の報告書でも明らかなように、患者に開示すべきこと、開示されるべき診療情報の範囲、法制化の必要性等について、基本的には決着がついたとみてよいでしょう。さらに実践的問題においても、診療情報の患者への開示義務を法律で定めるまえに、いわゆる条件整備が法制化に先行しなければならないという意見は、医師を中心に根強く残っているとはいえ、説得力に欠けていることは明らかです。
 したがって次の段階は、患者に自己の診療情報の開示請求権があることを認める内容の法律案(医療法の一部改正あるいは単独立法案)を国会に上程させるということですが、これについては当然日本医師会の強い抵抗が予想されることから、政府案が早い時期に出されるだろうと楽観はできません。
 また、議員立法を目指すとしても、法制化を求める我々の運動がないままで、野党が法律案を提案するという情勢でもありません。 医療記録開示請求権の法制化運動を飛躍的に強めることが求められています。