第23期議案書

第23期議案書(2012年秋〜2013年秋)

1 患者の権利法制定に向けての動き

 医療界において医療基本法制定に向けての動きが活発化しており、これを「患者の権利擁護を中心とした医療基本法」として結実させることができるかが現今の大きな課題です。
 日本医師会は2012年12月22日に日本医師会館で「医療基本法(仮称)制定に関するシンポジウム」を開催したのを皮切りに、2013年1月から、福岡、札幌、奈良、仙台、名古屋、大宮、広島で、ブロック単位の医師会連合会と共催でのシンポジウムを連続的に開催しました。現時点では、日本医師会医事法関係検討委員会の案として医療基本法草案が示されていますが、今後、ブロック単位での意見集約を行い、2014年6月までに日本医師会としての見解をまとめる予定のようです。
 医療関係団体の中で、最も早い時期に医療基本法の必要性を主張していた全日本病院協会は、2013年2月、「医療基本法全日病版(たたき台)」を理事会で承認し、公表しました。日本医師会草案には、「患者等の権利と責務」という1章がもうけられているのに対し、この全日病版には「国民や患者の責務」の条文があるのみで、患者の権利に関する条文は含まれていません。
 日本病院会でも、「医療基本法策定に関しての日本病院会からの提言」公表に向けて最終的な詰めが行われているとのことです。
 2012年10月に患者の権利法大綱案を発表した日本弁護士会連合会は、2013年8月から日本医師会との、医療基本法及び患者の権利法に関する意見交換会を重ねています。また、日弁連の大綱案に関し、患者団体からのヒアリングも予定されています。

2 安全な医療を目指す動き

 (1) 医療事故調査制度をめぐる動き

 厚生労働省「医療の安全・医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」内に設置された「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」は、2013年5月29日に「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」(以下、「あり方」と表記します)をとりまとめました。
 2008年の「医療安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止の在り方に関する試案(第三次試案)」、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」が、中立・公正な第三者機関を公的機関として設置し、それによる医療事故調査を実施することを目指していたのに対し、今回の「あり方」は院内事故調査を中心とするものです。第三者機関は「独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を有する民間組織」であり、独自調査を行うのは、「院内調査の実施状況や結果に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて」とされています。また2008年の案では、医師法21条を改正し、第三者機関への事故報告を行えば異状死届出義務を免れ、報告された事案のうち一定の要件を充たす悪質な例について第三者機関から警察へ報告がなされる仕組みになっていましたが、「あり方」は医師法21条には手をつけず、第三者機関への報告と、警察への異状死届出が並存することになります。
 当初、厚労省は、この「あり方」に従った医療事故調査制度創設を含んだ医療法改正案を2013年秋の臨時国会に提出する予定と報じられていましたが、現在では2014年通常国会提出予定とされています。

 (2) 産科医療補償制度をめぐる動き

 2009年1月に創設された産科医療補償制度は、2012年2月から制度見直しに向けた議論が開始されています。補償対象者の数が当初の見込みよりかなり少なく剰余金が発生していることから、掛け金額、補償水準、補償範囲等について見直しの必要性が指摘されています。

3「医療を受ける権利」を巡る状況

 2013年3月、政府はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明、7月から協議に参加しました。TPPに関しては、そのISDS条項により日本の公的医療保険が参入障壁であるとして提訴される可能性等医療を受ける権利に関する影響が懸念されています。

現段階の情勢

 「当初から予測されていたことではありますが、医療基本法をめぐる医療界の動きが活発化するにつれ、その中心が「患者の権利擁護」から、医療関係者の利益にシフトしていく傾向が顕れてきました。全日病版には「国民や患者の責務」の条文があるのみで、患者の権利に関する条文は含まれていませんし、日本病院会の提言は未発表ですが、医療事故についての刑事免責、民事免責を盛り込まれるとの情報もあります。
 一方で、日本医師会が2013年4月に開催した「医療基本法(仮称)に関する都道府県医師会担当理事連絡協議会」では、「なぜいまのタイミングで提案するのか」、「患者の権利法制定の動きがあり、日医が対案を出さなければ患者の権利法=医療基本法となってしまう」との質疑応答がなされており、患者の権利法制化を求める動きが、医療界にとって無視できないものになっていることも明らかです。
 2014年までにまとめる予定とされている日本医師会の案がどのような形になるかは、今後の医療基本法の方向性を大きく左右するものと思われます。
 医療事故調査制度については、2014年の通常国会に提出予定の医療法改正案に盛り込まれる予定です。「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」の構想は、公正・中立な第三者機関の医療事故調査によって医療事故再発防止を図るという理念に照らして極めて不十分と評価せざるを得ませんが、それでも医療界には、責任追及に繋がるとして反対する声が絶えません。医療被害者たちの長年の運動の成果としてやっと実現の光が見えてみたものであり、再び店晒しにならないよう、厚労省に対し、その実現を強く求めていく必要があります。