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今まで提出した権利法意見書

診療情報の開示に関するガイドライン(案)に関する意見書

2003年7月17日

厚生労働省医制局医事課  御中

患者の権利法をつくる会
事務局長 小林 洋二 
〒812-0044 福岡市博多区千代4丁目31番7号九県前ビル3階
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私たち「患者の権利法をつくる会」は、「医療における患者の諸権利を定める法律案」を起草し、その制定に向けて立法要請活動を行うとともに、医療の諸分野における患者の諸権利を確立することを目的として、1991年10月に結成された市民団体です。また私たちが1999年11月に「医療記録法要綱案」を起草し、診療記録開示の法制化を求めてきたことは、「診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会」報告書に記載されているとおりです。

 

1 「診療情報の開示に関するガイドライン」の位置づけ

このたび個人情報保護法の制定により、一定の範囲での診療記録開示が法的義務として認められました。しかし、個人事業取扱事業者に含まれない小規模医療機関の存在や、遺族からの診療記録開示請求の取扱を考えれば、個人情報保護法による診療記録開示法制化の限界は明らかであり、改めて診療記録開示に関する個別立法が検討されるべきことは、参議院個人情報保護特別委員会付帯決議のとおりです。
 この「診療情報の開示に関するガイドライン」は、診療記録開示に関する個別立法が制定されるまでの暫定的なものと位置づけられるべきです。

 

2 「ガイドライン(案)」に関する総論的意見

前項の位置づけを前提とする限り、「診療情報の開示に関するガイドライン(案)」の内容は、次項に指摘する若干の問題点を除き、概ね是認できるものです。早急に確定した上、このガイドラインの存在及び内容を国民に周知徹底するよう要望します。
 なお、「ガイドライン(案)」の12では、医療機関の管理者に対し、「診療情報の開示に関する規定を整備し、苦情処理体制も含めて、院内掲示を行うなど、患者に対しての周知徹底を図らねばならない」としています。確かに、本ガイドラインに基づいて当該医療機関が整備した独自の規定については、当該医療機関が周知徹底すべきものです。しかし、ガイドラインの性格上、当該医療機関が実際に規定を整備するか否かは、あくまでも医療機関の自主的取組に任せることになります。この状況は、日本医師会の「診療情報の開示に関する指針」をはじめとする各種ガイドラインに基づいて各医療機関が自主的に診療記録開示に取り組んでいるという現状とそれほど変わりません。
 私たちは、このガイドラインを策定した厚労省自身が、積極的にガイドラインの存在及び内容を国民に周知徹底することが必要であると考えます。国民が、このガイドラインの存在を知り、その内容に照らして各医療機関の取組を評価することこそ、医療機関の自主的な取組を促進することになるはずです。

3 「ガイドライン(案)」の若干の問題点

(1) ガイドラインの目的・位置づけについて

「ガイドライン(案)」は、ガイドラインの目的について、「医療従事者等が診療情報を積極的に提供することにより、患者などが疾病と診療内容を十分理解し、医療従事者と患者などが共同して疾病を克服するなど、医療従事者と患者等とのより良い信頼関係を構築すること」と述べています。
 診療情報の提供及び診療記録の開示にこのような目的が含まれることは当然です。
 しかし診療記録の開示の必要性は、むしろ自己情報コントロール権(プライバシー)の観点から基礎づけられるべきですし、さらには医療における透明性(トランスペアレンシー)の確保や患者等に対する説明責任(アカウンタビリティー)といった観点からも重要な意義を有しています。
 日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」は、診療記録開示を原則として謳いながらも「裁判問題を前提とする場合は、この指針の範囲外であり指針は働かない」として、多くの医療機関に開示拒否の口実を与えてきましたが、その論理的根拠は、診療情報提供の目的を「患者が疾病と診療の内容を十分に理解し、医療の担い手である医師と医療を受ける患者とが、共同して疾病を克服し、医師、患者間のより良い信頼関係を築くこと」に限定するところにありました。  本ガイドラインが、日本医師会「診療情報の提供に関する指針」の姿勢と一線を画するものであることは、「訴訟を前提としていることのみを理由に診療記録の開示を行わないことは適当ではない」という「診療に関する情報提供の在り方に関する検討会」報告書の記載から明らかですが、このガイドラインの目的だけを読んだ場合、「診療情報の提供に関する指針」と同様の考え方を採用しているものという誤解を生じる虞があります。
 このような誤解を避けるためにも、まずガイドラインの目的の中に、「自己情報コントロール権(プライバシー)」、「医療における透明性(トランスペアレンシー)の確保」、「患者等に対する説明責任(アカウンタビリティー)」を明記したうえ、訴訟を前提とした場合においてもこのガイドラインの適用は除外されないことを明らかにすべきです。

(2) 診療情報の提供を拒み得る場合について

「ガイドライン(案)」は、診療情報の提供を拒み得る場合として、(1)診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき、(2)診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるときの二つを挙げていますが、相当なものとは言えません。
 WHO患者の権利に関するヨーロッパ会議の「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」(以下、「ヨーロッパ宣言」といいます)は、「情報」の章において、「情報は、その提供による明らかな積極的効果が何ら期待できず、その情報が患者に深刻な危害をもたらすと信ずるに足りる合理的な理由があるときのみ、例外的に、患者に提供しないことが許される」としています。
 以上のような「ヨーロッパ宣言」に比較して、「ガイドライン(案)」の「患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき」という要件はあまりに厳格さを欠いています。「患者等が疾病と診療内容を十分理解し、医療従事者と患者等が共同して疾病を克服する」といったガイドラインの目的に照らしても、患者にとって厳しい情報をも含めて共有することが重要です。したがって、このガイドラインにおいて診療情報を提供しないことが許される要件を定めるとすれば、「診療情報の提供に、明らかな積極的効果が何ら期待できず、その情報が患者に深刻な危害をもたらすと信ずるに足りる合理的な理由がある場合」といった形にすべきです。
 以上は、診療情報提供一般の場合であり、診療記録開示の場合にはこれとはまた事情が異なります。
 「ヨーロッパ宣言」の「秘密保持及びプライバシー」の章においては、「患者は、自己の医療記録や専門記録及び自己に対する診断、治療及びケアに付随するその他のファイルや記録にアクセスし、自己自身のファイル及び記録あるいはその一部についてコピーを受領する権利を有する。第三者に関するデータはアクセスの対象から除外される」とされています。
 すなわち、仮に「明らかな積極的効果が何ら期待できず、その情報が患者に深刻な危害をもたらすと信ずるに足りる合理的な理由がある」情報であっても、患者自身の情報である限り、アクセスの対象からは除外されません。
 これは当然のことです。患者自らが診療記録開示請求という方法で診療情報の提供を求めるのに対し、「患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある」といった理由で開示を拒否するとすれば、患者を疑心暗鬼に陥れることは明らかです。したがって、このような理由を明らかにしての開示拒否は現実には不可能であり、それにも拘わらずこのような開示拒否理由を残すとすれば、患者に対して虚偽の開示理由を告げるような運用を蔓延させる可能性さえあります。
 このような開示拒否事由を定めることは、患者や医療従事者を混乱させるだけであって、何の益もありません。
 以上のとおり、ガイドラインに開示拒否事由を定める場合、「ヨーロッパ宣言」を参考に、「第三者のプライバシーを害する場合」に限定すべきであり、他の開示拒否事由は一切不要です。