医療事故報告・調査の制度化に関する要請書

医療事故報告・調査の制度化に関する要請書

2002年6月18日

厚生労働大臣 坂 口   力  殿

 

(呼びかけ人一覧省略)

 

要 請 の 趣 旨

 医療事故を防止するため、全ての医療機関に第三者機関に対する医療事故の報告を義務づけ、第三者機関によって医療事故の調査を行う制度の創設を要請します。

 

要 請 の 理 由

 貴省医療安全対策推進会議は、4月17日、報告書を発表し、全国の病院と入院設備がある診療所に対し、事故防止対策の指針整備、医療安全管理委員会の設置、医療事故の院内報告制度の創設、安全管理のための職員研修等を義務づけることを提言しました。また都道府県に対しては「(仮称)医療安全相談センター」という患者に対する医療事故相談窓口を設置することを提言しています。

 国民の安全な医療を受ける権利を保障するためには、公的な医療事故防止対策が不可欠であり、上記報告はその第一歩になるものと思われます。

 しかし医療事故防止対策で最も重要なのは、現に発生した医療事故の原因解明であり、その原因に応じた再発防止策を講ずることです。そのような視点に立った場合、上記報告書の提言は極めて不十分なものであり、医療事故防止の実効性は疑問と言わざるを得ません。

 第一に、医療事故の原因解明に基づく再発防止策を講ずるにあたっては、全国の医療事故報告を一元的に管理し、様々な視点から分析していくことが必要です。各医療機関ごとの院内報告制度では、当然ながら分析対象がその医療機関内の事故に限定されますし、またそこで検討された再発防止策が日本の医療全体に普及していく保障もありません。

 第二に、医療事故は入院施設のある医療機関のみで発生するものではありません。入院施設の有無を問わず、全ての医療機関で発生する医療事故を集約するためには、公的な報告制度が必要です。

 第三に、院内報告制度や都道府県の相談窓口は、単なる報告や相談に止まって原因解明に結びつかない虞があります。医療事故防止のためには、これらの報告、相談が原因解明に結びつくことが前提であり、そのためにも全国の医療事故報告を一元的に管理するとともに、事故原因の調査権限を有する第三者機関を創設することが必要です。

 貴省は、現在いわゆるヒヤリ・ハット事例(インシデント)について事例分析的な情報及び定量分析的な情報の収集とその分析結果等に基づく情報の提供を部分的に開始しており、この報告書案では、ヒヤリ・ハット事例の収集範囲を拡大することが提言されています。しかしインシデントはどこまで分析してもインシデントでしかありません。真剣に医療事故防止を目指すのであれば、事故事例(アクシデント)についてこそ、このような作業を行うべきことは自明のことです。

 事故事例の報告・調査制度に対しては、「当事者の免責を行うことなく報告を求めることは、法的責任の面で当事者の一方に著しい不利益を生じさせる恐れがあり、かえって事故の隠蔽につながりかねないという意見や、係争中の当事者間の関係にも配慮すべきとの意見もあり、今後法的な問題も含めてさらに検討することとした」とのことですが、この報告書は医療事故を「医療に関わる場所で医療の全過程において発生する人身事故一切を包含するもの」と定義しているのであり、事故報告はそのまま医療過誤責任を認めることにはなりません。また医療事故の発生が医療機関・医療従事者の過失に起因するものであれば、相応の責任を負うべきは当然のことであり、その責任逃れに公的な配慮を行うことは無用のことです。

 医療事故防止の報告・調査制度がかえって事故の隠蔽に繋がりかねないような医療関係者の意識を変革せずして医療事故防止対策はあり得ません。実効性のある医療事故防止対策を実現するため、全ての医療機関に第三者機関に対する医療事故の報告を義務づけ、第三者機関によって医療事故の調査を行う制度を早急に創設されるよう要請する次第です。