今まで提出した権利法意見書

診療記録開示法制化に関する意見書

2003年1月22日
患者の権利法をつくる会
事務局長 小林 洋二

私たち「患者の権利法をつくる会」は、「医療における患者の諸権利を定める法律案」を起草し、その制定に向けて立法要請活動を行うとともに、医療の諸分野における患者の諸権利を確立することを目的として、1991年10月に結成された市民団体です。また1999年11月には「医療記録法要綱案」を起草し、その立法を提唱しています。私たちが提唱している法律案の内容については、添付のパンフレット「与えられる医療から参加する医療へ(5訂版)をご参照下さい。
貴検討会は、診療記録開示の法制化を検討課題とした1999年7月の医療審議会「医療供給体制の改革について」、及び遺族からの開示請求についても検討すべきとした2000年12月の医療法の一部改正に伴う参議院国民福祉委員会付帯決議、さらには2002年度中に診療情報開示に関するルールの確立をすべしとした「規制緩和三カ年計画」を受けて設置されたものであり、多くの国民は、今度こそ診療記録開示法制化が実現するものと期待しています。
私たち「患者の権利法をつくる会」は、これまで一貫して診療記録開示法制化を主張し、機会があるごとにその意見を表明してきたものですが、今回、貴検討会に、是非とも国民の期待に応える答申を行っていただきたく、改めて以下のとおり意見を申し述べる次第です。

 

意見の要旨

診療記録開示制度を早急に法制化すべきです。

 

意見の理由

1 診療記録開示の必要性について

診療記録が患者の求めに応じて開示すべきものであることは、1998年6月の「カルテ等診療情報の活用に関する検討会」報告書、及び1999年7月の医療審議会「医療供給体制の改革について」で既に結論が出ています。
「カルテ等診療情報の活用に関する検討会」報告書では、診療情報開示の必要性の根拠として、「医療従事者、患者の信頼関係の強化、情報の共有化による医療の質の向上」及び「個人情報の自己コントロール権」を挙げています。
もちろん、これらだけでも、診療情報開示の必要性を根拠づけるには十分です。しかし、ここ数年の医療事故の多発及びそれを契機とする医療事故防止対策の議論の展開は、新たな角度から診療記録開示の必要性に光を当てることになりました。
2001年6月に発表された国立大学医学部附属病院長会議常置委員会の「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて(提言)」は、冒頭で「真の事故防止システム整備のためには、発生した医療事故に対して当事者の処分のみで済ませることなく、その事故を教訓として再発防止に生かせるような、組織的学習メカニズムを院内に持たなければならない」として、報告書の第8編を「事故発生時の対応」にあて、

「発生した事態について、患者・家族が自ら理解し判断する上で、いわゆる『カルテ』をはじめとする診療記録は極めて重要な資料である。医療側による説明に必要な場合はもとより、患者・家族の側から求めがあれば、原則としてこれを開示することが必要である。」

「患者が死亡した場合に、遺された人々が、患者の疾病とそれに対して行われた医療、患者が最終的に死に至る経緯について知りたいということであれば、病院としてはそうした要請を尊重してできるだけの対応を行うことが望まれ、診療記録の開示要請に対しても、原則としてこれに応えるべきと考える。」

との考えを示しました。
医療事故後に診療記録を改竄した執刀医が証拠隠滅の刑事責任を問われている東京女子医科大事件などを見ても、診療記録開示による医療の透明性確保が非常に重要な課題であることは明らかです。
診療記録開示の必要性が確認された1998年当時より、一層その必要性の認識が高まっているのが今日の状況なのです。

2 法制化の必要性について

1999年7月の医療審議会「医療供給体制の改革について」は、診療記録開示の必要性を確認しながら、「この方策の取扱いについては、今後の患者の側の認識、意向の推移、医療従事者の側の自主的な取組み及び診療情報の提供・診療記録の開示についての環境整備の状況を見つつ、さらに検討するべきである」と法制化を先送りしました。それから3年半が経過した現在、法制化の必要性についてはどのように考えるべきでしょうか。

 
(1) 日本診療録管理学会の調査から

診療記録開示に対する医療従事者側の自主的な取り組みの一端は、日本診療録管理学会の「カルテ等の診療情報の提供のための支援事業」調査報告書によって窺うことができます。
この調査では、全国2734の医療機関にアンケートを依頼していますが、回答が掲載されているのは1049施設分です。このうち、すべての患者に対しカルテや代替文書による情報提供を行う施設が10.2%、特に要望があった場合にカルテを見せたりそのコピーを渡すという施設が65.5%であり、原則として開示・提供は行っていないとする施設が9.7%でした。
1049施設の75.7%が、何らかの形で診療記録開示を行っているという事実は、現在の医療制度の許で、診療記録開示が十分可能であることを示すものだと思われます。もちろん、よりよい診療記録開示制度を構築するための環境整備を検討する余地はあるにしても、1999年当時に主張されたような、「環境整備が先行しなければ診療記録開示はできない」という状況は存在しないものと考えるべきです。
その一方、9.7%もの施設が、原則として診療記録開示を行わないと回答しているのは、まさしく「医療従事者の側の自主的な取組み」の限界を示すものです。このデータと、現時点でカルテ開示に関する規約がなく、外部の基準に準拠することもなく、規約を作成する予定さえない施設が8.1%存在することを考え併せれば、どれほど自主的な開示を奨励しても、頑なにカルテ開示を拒む医療機関が一定の割合で存在すると考えるほかありません。アンケートに回答しなかった6割以上の医療機関を考慮に入れれば、このような医療機関は相当な数に上ることが予想されます。
患者に対しては、どのような医療機関で診療を受けた場合においても、均しくその権利が保障されるべきであり、個人情報コントロール権ももちろんその範疇に含まれるべきものです。そのためには、全ての医療機関に対して、法律によって診療記録開示を義務づけることが必要です。

(2) 日本医師会「診療情報提供のための指針」について

診療記録開示に対する医療従事者側の自主的な取り組みに、大きな影響を有しているのが日本医師会「診療情報提供のための指針」であると思われます。
私たちはこの指針が、診療記録開示の普及にある一定の役割を果たしたことを否定するものではありませんし、昨年10月の改訂で、診療情報開示の定義から「要約書の交付」が削除されたこと、及び相続人からの診療記録開示請求も認めるに至ったことは大きな前進であると評価しています。
しかし、この指針は付則「指針の実施にあたって留意すべき点」において、「裁判問題を前提とする場合は、この指針の範囲外であり指針は働かない」としている点で、極めて大きな限界を有しています。
患者が診療記録の開示を請求する場合には、医療機関に対して、何らかの不信感を持っている場合も多々見受けられ、裁判に発展する可能性は常に存在します。医療機関側が、その可能性があることを以て「裁判問題を前提とする場合」と考えれば、この指針は全く働かないのです。現に、そのような解釈で診療記録開示を行わないことを原則としている医療機関も存在し、様々な相談窓口でこのような開示拒否が問題になっています。開示したくない医療機関には、常に開示拒否の口実があるのです。
国立大学医学部附属病院長会議常置委員会の「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて(提言)」が示しているとおり、医療事故あるいは患者側から見て医療事故が疑われるような事態が発生した場合にも、診療記録開示は極めて重要な役割を果たします。しかし「裁判問題を前提とする場合は、この指針の範囲外であり指針は働かない」という付則は、このような診療記録開示の役割を否定するものです。この付則が昨年10月の改訂でも維持されたことからすれば、この問題は、日本医師会による自主的な取り組みの限界と考えるべきものでしょう。
このような限界に鑑みた場合、やはり診療記録開示を法制化し、医療機関による恣意的な開示拒否に歯止めをかける必要があります。

 
3 結論

以上のとおり、診療記録開示及びその法制化の必要性は明らかです。貴検討会が国民の期待に応える結論を出すことを願ってやみません。

以上